生活保護の受給が決定すると、健康保険証の保有が認められなくなります。
それでは、受給者が病気やケガをした際の医療はどのように保障されるのでしょうか。
実際には、生活保護受給者に対して「医療券」という専用の証書が交付され、この医療券が健康保険証の代替として機能するのです。
令和5年12月時点のデータによると、被保護者数は約202万人、被保護世帯数は約165万世帯に上り、保護申請件数は約1.9万件、保護開始世帯数は約1.9万世帯となっています。
生活保護を受給する人々にとって、医療券は必要不可欠な存在と言えるでしょう。
(参考サイト:厚生労働省)
この記事では、生活保護受給者に交付される医療券に焦点を当て、健康保険証との相違点や使用方法、留意事項などを詳細に説明します。
さらに、社会保険加入者の医療費負担の取り扱いや、医療券を持たずに緊急受診する場合の対処法についても言及しています。
生活保護制度の医療扶助の仕組みを把握することで、受給者が必要な医療サービスを安心して利用できるようサポートすることを目的としています。
1. 生活保護制度と医療扶助
1-1. 医療扶助の位置づけと重要性
生活保護制度は、生活に困窮する国民の最低限度の生活を保障し、自立を支援することを目的とした公的扶助制度です。
この制度には、様々な扶助が用意されていますが、中でも医療扶助は極めて重要な役割を担っています。
生活保護制度の目的と各種扶助の概要
生活保護制度は、憲法第25条の理念に基づき、国の責務として生活に困窮するすべての国民に対して必要な保護を行い、最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。
この目的を達成するため、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助など、多岐にわたる扶助が用意されています。
医療扶助の役割と重要性
医療扶助は、生活保護受給者の健康を守り、必要な医療サービスを受けられるようにするための重要な仕組みです。
経済的な理由から十分な医療を受けられない状況に陥ることを防ぎ、生活保護受給者が安心して医療機関を利用できるよう、医療費の自己負担分を軽減または免除するものです。
医療扶助の具体的な仕組み
生活保護受給者が医療機関で診療を受ける際、健康保険証の代わりに「医療券」を提示します。
医療券の提示により、診察や治療、薬剤費などの医療費が公費で賄われるため、原則として自己負担は発生しません。
ただし、先進医療や美容整形など、一部の医療サービスは対象外となります。
医療扶助は、生活保護受給者の健康を維持し、自立を支援する上で欠かせない制度であり、生活保護制度の中で非常に重要な位置を占めています。
受給者の生活の質を維持・向上させるための大きな役割を担っているのです。
2. 生活保護受給者と健康保険証の関係
2-1. 健康保険証を持てない理由
生活保護の受給が開始されると、原則として健康保険証を保有することができなくなります。
これは、生活保護法の規定により、医療扶助が健康保険制度に優先して適用されるためです。
つまり、生活保護受給者の医療費は、医療扶助によって全額公費負担となるため、健康保険証を使用する必要がなくなるのです。
2-2. 国民健康保険・後期高齢者医療制度からの脱退
生活保護の受給が決定した場合、国民健康保険や後期高齢者医療制度への加入資格を失います。
生活保護の申請が承認された時点で、これらの制度から脱退する手続きを行う必要があります。
脱退手続きは、生活保護の担当ケースワーカーが代行して行うのが一般的です。
なお、生活保護が廃止された後は、改めて国民健康保険等に加入しなければなりません。
2-3. 社会保険(健康保険)に加入している場合の取り扱い
一方、社会保険(健康保険)に加入している場合は、生活保護の受給が決定しても、必ずしも脱退する必要はありません。
社会保険に加入したまま生活保護を受給することが可能です。
ただし、この場合、医療費の負担については原則として医療扶助が優先され、社会保険からの給付は一部に限定されます。
具体的には、社会保険の自己負担分(通常3割)が医療扶助によって賄われることになります。
生活保護受給者には、健康保険証に代わって医療券が交付されます。
医療券の利用方法や注意点については、次の章で詳しく解説します。
3. 医療券 - 健康保険証の代替としての役割
3-1. 医療券の機能と健康保険証との相違点
生活保護受給者に交付される医療券は、健康保険証の代わりとして医療機関で使用されます。
医療券を提示することで、診察や治療、薬剤費などの医療費が公費で賄われ、原則として自己負担は発生しません。
一方、健康保険証を使用する場合は、医療費の一部(通常3割)を自己負担する必要があります。
つまり、医療券は生活保護受給者の医療費を全額補助する役割を果たしているのです。
3-2. 医療券の取得方法と必要書類
医療券は、生活保護の申請が承認され、受給が決定した後に、福祉事務所から交付されます。
医療券の交付を受けるためには、以下の書類が必要となります。
- 生活保護開始決定通知書
- 本人確認書類(運転免許証、パスポート、マイナンバーカードなど)
- 印鑑(スタンプ印可)
これらの書類を揃えて、福祉事務所に提出することで、医療券が交付されます。
3-3. 医療券の使用方法と留意事項
医療券を使用する際は、医療機関の窓口で被保護者証(生活保護受給者証)と一緒に提示します。
医療券の使用は、生活保護法指定の医療機関に限定されます。
指定外の医療機関では使用できません。
また、医療券の貸借や転売は禁止されています。
不正使用が発覚した場合、生活保護の停止や廃止等の処分を受ける可能性があります。
3-4. 医療券の有効期限と更新手続き
医療券の有効期限は、通常1年間です。
有効期限が切れる前に、福祉事務所で更新手続きを行う必要があります。
更新手続きの際は、被保護者証と本人確認書類を提示し、新しい医療券を受け取ります。
また、生活保護の停止や廃止、転出等により資格を喪失した場合は、速やかに医療券を返還しなければなりません。
生活保護を受給している知人の話では、医療券の更新手続きが毎年必要で、期限を忘れると医療機関で受診できないトラブルがあったそうです。
医療券の有効期限と更新手続きは、受給者にとって重要な情報と言えます。
4. 医療券と社会保険の併用について
4-1. 社会保険加入者の医療費負担
生活保護受給者が社会保険(健康保険)に加入している場合、医療費の負担は原則として医療扶助が優先されます。
つまり、社会保険の自己負担分(通常3割)が医療扶助によって賄われ、本人の自己負担は発生しません。
ただし、医療扶助の対象とならない先進医療や差額ベッド代などは、社会保険の自己負担分と同様に本人負担となります。
4-2. 社会保険のメリット(出産一時金など)
社会保険に加入していると、出産一時金や傷病手当金、高額療養費などの給付を受けられるメリットがあります。
出産一時金は、出産した際に支給される定額の給付金で、医療扶助では支給されません。
また、傷病手当金は、病気やケガで会社を休んだ場合に、一定期間の所得保障を受けられる制度です。
これらの給付は、生活保護受給者であっても社会保険に加入していれば受けることができます。
4-3. 医療券と健康保険証の使い分け方
生活保護受給者が社会保険に加入している場合、医療機関の窓口では医療券と健康保険証の両方を提示します。
医療費の請求は、まず社会保険に対して行われ、社会保険で認められた自己負担分を医療扶助が負担する流れになります。
ただし、医療扶助の対象とならない費用は、健康保険証を使って本人が支払うことになります。
このように、生活保護受給者が社会保険に加入している場合、医療券と健康保険証を適切に使い分けることで、医療費の負担を最小限に抑えつつ、社会保険の給付も受けられるのです。
5. 緊急時の対応 - 医療券と健康保険証がない場合
5-1. 被保護者証での受診
生活保護受給者が医療券を持たずに急病やケガなどで医療機関を受診しなければならない場合、被保護者証(生活保護受給者証)を提示することで診療を受けることができます。
被保護者証は、生活保護受給者であることを証明する公的な書類であり、医療機関はこれを確認することで、医療扶助の対象者であると認識し、診療を行います。
5-2. 事後の医療券提示の必要性
ただし、被保護者証のみでの受診は、あくまでも緊急時の対応であり、事後的に医療券を医療機関に提示する必要があります。
医療券の提示がない場合、医療機関は医療費の請求先が不明確になるため、早急に福祉事務所から医療券を取得し、医療機関に提出しなければなりません。
この手続きを怠ると、医療機関が医療費の未収金を抱えることになり、トラブルの原因となります。
5-3. 緊急時の健康保険証の扱い
一方、社会保険(健康保険)に加入している生活保護受給者が、健康保険証を提示して緊急的に受診した場合はどうなるでしょうか。
この場合、医療機関は通常の保険診療として扱い、健康保険証で受診したものとして医療費の請求を行います。
ただし、本来は医療扶助が優先されるべきであるため、事後的に福祉事務所に報告し、医療券を提示する必要があります。
福祉事務所は、社会保険に請求された医療費のうち、自己負担分を医療扶助で負担することになります。
緊急時の受診においては、被保護者証や健康保険証を適切に使用することが重要ですが、同時に事後的な医療券の提示や福祉事務所への報告も忘れてはならない手続きです。
6. マイナンバーカードと生活保護受給者
6-1. マイナンバーカードの機能と取得方法
マイナンバーカードは、マイナンバー(個人番号)が記載された顔写真付きのICカードで、公的な身分証明書として使用できます。
このカードは、税や社会保障、災害対策などの手続きで必要となる他、将来的には健康保険証としての利用も予定されています。
(参考サイト:マイナポータル)
マイナンバーカードの取得は、住所地の市区町村の窓口または申請用のWebサイトから行えます。
必要書類(申請書、顔写真、本人確認書類)を提出し、審査を経て交付されます。
6-2. 生活保護申請とマイナンバーカードの関係
生活保護の申請では、申請者のマイナンバーの提供が必須となっています。
これは、生活保護の適正な運営や不正受給の防止を目的としており、申請者の収入や資産の状況を正確に把握するために必要な措置です。
ただし、マイナンバーカードの提示は必須ではありません。
申請の際は、マイナンバーが確認できる書類(通知カード、住民票の写しなど)の提示でも構いません。
しかし、マイナンバーカードを持っていれば、申請手続きがスムーズに進む可能性があります。
6-3. マイナンバーカードと健康保険証の関係
現在、マイナンバーカードは健康保険証としての機能を備えていませんが、将来的には健康保険証としての利用が可能になる予定です。
これにより、医療機関の窓口で保険証の代わりにマイナンバーカードを提示することで、保険診療を受けられるようになります。
ただし、生活保護受給者の場合、医療扶助が優先されるため、マイナンバーカードが健康保険証の代替として使用されることはありません。
生活保護受給者は、引き続き医療券を使用して医療機関を受診することになります。
マイナンバーカードは、生活保護の申請や受給後の手続きにおいて重要な役割を果たしますが、健康保険証としての機能は生活保護受給者には直接関係しないと言えるでしょう。
7. まとめ
7-1. 生活保護受給者の医療保障のポイント整理
生活保護受給者は、医療扶助によって医療費の負担が軽減され、必要な医療サービスを受けることができます。
これは、生活保護制度の重要な柱の一つであり、受給者の健康を守り、最低限度の生活を保障するために不可欠な仕組みです。
受給者は、健康保険証に代わって医療券を使用し、指定医療機関で診療を受けます。
7-2. 健康保険証から医療券への移行
生活保護の受給が決定すると、国民健康保険や後期高齢者医療制度から脱退し、医療券が交付されます。
社会保険に加入している場合は、脱退の必要はありませんが、医療費の自己負担分は医療扶助が負担します。
医療券の取得や更新、適切な使用方法を理解することが重要です。
7-3. 医療券と健康保険証の使い分けの重要性
社会保険に加入している生活保護受給者は、医療券と健康保険証を状況に応じて使い分ける必要があります。
原則として医療扶助が優先されますが、出産一時金など医療扶助の対象とならない費用は、健康保険証を使用します。
緊急時には、被保護者証や健康保険証で受診し、事後的に医療券を提示することが求められます。
生活保護受給者の医療保障は、医療扶助と医療券を中心に成り立っています。
受給者の皆さまは、制度の仕組みを十分に理解し、医療券を適切に使用することが大切です。
わからないことがあれば、ケースワーカーや福祉事務所に相談しましょう。
生活保護制度を有効に活用し、必要な医療を安心して受けられるようにしてください。