「銀行員は、投資は禁止されていると聞いたことがある。」
「銀行員は、なぜ投資を禁止されているの?」
銀行員はその職務の特性上、投資に関する制約があります。
ただ、全面的に投資が禁止されているわけではありません。
筆者はかつて10年間にわたって銀行に勤務していた経験があります。
10年間の経験を交えながら、その真相をお話ししていきます。
ぜひ、最後までお付き合いください。
銀行員は、本当に投資を禁止されているのか?
全ての投資が、違法というわけではない
まず、銀行員による投資が、全て違法になるというわけではありません。
銀行に限らず、金融機関(銀行・証券会社・保険会社)に勤務している場合、
- 信用取引
- 先物取引
上記2種類の投資については、禁止されています。
株式投資も、法律的には可能
株式投資も信用取引は禁止されていますが、現物の取引は明確に禁止されているわけではありません。
ただ、「銀行員は投資禁止」と言われている理由は、「投資すること自体」を指したものではありません。
銀行員の職務特有の要因が、関係しています。
銀行員は、なぜ投資を禁止されているのか?
インサイダー取引を防ぐことが目的
重要なキーワードは「インサイダー取引」です。
「インサイダー取引」とは?
上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社株等を売買することで、自己の利益を図ろうとするもの。 |
「インサイダー取引」をもっと分かりやすく
(引用元:日本取引所グループ)
単的に言ってしまうと、「ズルをする」ということです。
絶対に儲かると分かっている状況で、株式の売買を行っているということです。
インサイダー取引の何が悪いのか?
投資家の間で、公平性が失われるということが、大きな問題点です。
本来、どの会社の株価が上昇して、どの会社の株価が下落するのかは、株式市場のプロであっても正確な予想は困難です。
一般の投資家であれば、なおさら正確な予想など極めて困難なものです。
「誰にも分からない」からこそ、株式市場に公平性が生まれます。
インサイダー取引は、その公平性を覆す行為であるということです。
インサイダー取引を行うと、どうなるのか?
・5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰則(又は懲役と罰則の両方)が科せられます ・インサイダー取引によって得た財産は没収されます |
社内規定に基づき罰則を受ける、という程度の次元ではなく、『刑事罰』が科せられるという点が非常に重要であり重大です。
少し事例の種類は異なりますが、「飲酒運転」の『刑事罰』は、
(酒気帯び運転の運転者) 3年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金 |
(酒酔い運転の運転者) 5年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
となっており、インサイダー取引への罰が、如何に重いものかが分かります。
妻名義であれば、バレない?
実際に、こんなことを考えている人はたくさんいます。
家族であっても、公表前の内部情報を基に株式の売買を行った場合は、やはり刑事罰の対象となります。
本人ではなく、妻名義でありながら刑事罰を科せられた事例は既にあります。
「インサイダー取引」に該当しない投資は?
銀行員であれば、全く投資を行うことができないのかと言うと、もちろんそんなことはありません。
投資信託や外貨預金であれば、「インサイダー取引」には該当しません。
事実、筆者も銀行員時代には、自分の銀行で販売している投資信託を購入したり、外貨預金を新規で始めたりもしていました。
投資信託の場合、非常に多くの株式・債券等が組み込まれている商品であるため、仮にインサイダー情報を持っていたとしても、ほとんど意味がありません。
(証券取引等監視委員会)
(引用元:証券取引等監視委員会)
筆者が実際に見た銀行員の不正行為
銀行員は企業の内部情報やお客様の資産状況に触れる機会が多いため、魔が差すといろいろな誘因が身近にあります。
インサイダー取引以外にも、様々な不正が起こります。
顧客から投資を一任される
筆者が勤務していた銀行では、投資信託の販売に力を入れていました。
懇意にしているお得意様から、繰り返し投資信託の売買注文を受けることは、特に珍しいことではありません。
しかし、お得意様との関係性が行き過ぎた事件が発生してしまいました。
そのお客様は、インターネットバンキングを利用して投資信託の売買を行っていました。
ただ、そのお客様はかなりご年配の方であったため、ご自身でインターネットの利用を行い、投資信託の売買も行っているということに、やや疑念を感じるお客様でした。
実は、インターネットバンキングで投資信託の売買を行っていたのは、お客様自身ではなく、銀行の担当者であったことが、後に発覚します。
パソコンを開くお客様の横に座って、操作方法を教えるという程度であれば、もちろん問題にはならなかったはずです。
その銀行の担当者は、お客様からインターネットバンキングのID・パスワードをお預かりし、お客様が全く感知しない場において、投資信託の売買を行っていたのです。
投資を一任されていたということです。
これは、もちろん違法です。
投資は自己の判断において行うことが、大原則です。
違法な状態にあったとしても、投資がうまくいって利益が出ている間は、お客様は何も言いません。
問題は、損失が発生した場合です。
お客様は損失が出ている状況に納得ができず、銀行の支店へ連絡をして事実が発覚するという顛末でした。
銀行の担当者側に悪意があったかどうかは、不明です。
むしろお客様の側が、「金融のプロである銀行員に投資してもらえれば、必ず儲かるはず」という思惑があったのかもしれません。
ただ、銀行の担当者は、初めの時点ではっきりとお断りしなければならなかったことは、間違いありません。
まとめ
銀行員は、投資そのものを全面的に禁止されているわけではなく、「インサイダー取引」が禁止されているというのが、真相です。
明確な規制がありながらも、それでも規制を無視したり、抜け道を探すものは、後を絶ちません。
「インサイダー取引」のような法規制は、今後も見直しが繰り返されていくものと考えられます。
「違法だとは、知らなかった」という事態にならないよう、最新の情報を確認することが重要です。気を付けましょう。
ライター名:元銀行員の金融・不動産ライター グッチ3