高齢になり、日々の暮らしに手助けが必要になることは誰にでも起こりうることです。
そうした時、施設入所を考えるのは珍しいことではありません。
私の両親も、晩年は施設入所を選択しました。
その施設入所が、私たち姉妹の間に決定的な溝を生んだのです。
なぜ、そうしたトラブルが起こったのか、避けられなかったのか。
今になってあれこれ考えると、思い当たることがいくつか出てきます。
自他ともに仲が良いと認める私たちが、犬猿の仲になってしまった経緯から、
トラブルを避けるヒントを探ります。
トラブルの原因は妹の使い込みです。
妹は親の資産を無断で使い込んでいたのでした。
施設利用料の滞納で事が発覚したのです。
高齢者施設の多くは、入所の際に資産を持ち込むことを禁じています。
現金はもちろん、証券、通帳、印鑑、貴金属も禁止です。
これは防犯上当然の措置です。
私たちの場合は、姉の私が遠方に嫁いでいるため、
近くに住んでいる妹が身元保証人となりました。
結果的に、親の資産の一切を管理することにもなったのです。
遠方に住む私がその役目を引き受けたとしても、実際には何もできません。
緊急事態でもすぐに駆け付けられない距離ですから、
妹が身元保証人になることは必然でした。
ただ、この時にもっと話し合いをしておけば・・・と今も後悔しています。
施設利用料は親の年金で賄えましたが、
自動引き落としの設定ではありませんでした。
最初は年金を使い込む程度だったようでしたが、
味を占めたのか、どんどんエスカレートしたようです。
その結果、年金だけではなく、証券、保険の類まで解約し、
介護保険料や固定資産税、住民税の果てまで何年も滞納していたのです。
たとえ、資産のすべてを管理していても、なぜそこまで使い込めたのか。
それは、委任状を勝手に作成したからです。
委任状は、本人が高齢で書けないとでもいえば代筆でもとがめられません。
年金手帳なり、何か公的な保証できるものを持参すれば大概は認められます。
そもそも、相手は親の筆跡を知らないのですから代筆でも通じるのです。
施設には健康保険証以外は持ち込めず、すべては妹の手にあるのです。
解約も引き落としも実に簡単なことでした。
一番の私の後悔は、この時点でもっと踏み込めばよかったということです。
私たちの状況から、妹が身元保証人になることに不満はありません。
ただ、妹はおおざっぱで細かいことは苦手な性格でした。
お金にもルーズな面があったので、
妹が資産管理をすることになった時、私には一抹の不安があったのです。
この不安は的中してしまいました。
長女なのに親の面倒を任せているという負い目から
私は不安を口にせず飲み込んでしまいました。
この時点で、細かいことでもきちんと話し合いを持つべきだったと
深く反省しています。
介護する上で一人の人間に負担や責任が集中するのは避けたいものです。
負担を分担するのはもちろんですが、
金銭管理のような権限が集中するのも避けるべきだと感じています。
どうしてもやむを得ない場合は
定期的に現状を報告する場を設ける、
管理者を複数にするなどの対策が必要ではないでしょうか。
また、最初から成年後見人のような公的保証人を立てることも一考だと考えます。
身内を疑うようで気が引けると感じる方もいるかもしれません。
しかし、私たちのようなトラブルは意外に多いのだそうです。
トラブルになるくらいなら、
割り切って最初にルールを決めたほうが得策ではないでしょうか。
使い込みが判明して、実態を調べることと対策を練るため
私はあらゆる公共機関を回りました。
市役所、福祉事務所、社会福祉協議会、裁判所、年金事務所
自治体の無料相談も何度も利用しました。
市役所は福祉課、住民課と、移動中の電車の中でも足踏みする状況でした。
その中で、何度も成年後見制度を利用してはどうですかと勧められました。
成年後見制度を知ってはいたのですが、
報酬が派生すると聞いていたので利用する決断には至りませんでした。
使い込みの額が想定外だったために、金銭的ゆとりがなかったのです。
そんな中のある日、年金受取口座に指定していた銀行で妹と遭遇しました。
幼いころから言い合いすらした記憶がない妹と大喧嘩。
それを銀行スタッフに見られてしまいました。
即、口座凍結です。
トラブルがあるようなので親族であっても引き出せないとのことです。
成年後見人のような公的保証人でなければ解除できないと言われてしまいました。
迷う選択すらありません。
成年後見人制度に申し込みました。
申請は難しいと聞いていましたが、思いのほか簡単に済みました。
ただし、記入する欄や、集める資料が多く、
高齢者が必要に応じて、自力で申請するのはハードルが高いと感じました。
裁判所の決定は、金銭管理は弁護士に
日常生活の支援は長女の私にという二人体制の決定でした。
すでに、父は他界していましたので、
母を私の住所内の施設に転居させました。
弁護士には母の年金から報酬が支払われています。
金銭的に困窮していることを裁判所は理解しているので
報酬額はあくまで無理のない範囲でとのことです。
額の決定は裁判所ですが、実際の額は私に知らされません。
私は、新しい施設の入居料や移動の諸経費を全額負担することとなりました。
後見人としての報酬はありませんし、
私が負担した経費も戻らないだろうと言われています。
返済するだけの余力がないことと、私が親族だからです。
それも仕方がないとあきらめてはいます。
しかし、後悔はつきません。
話し合うことはとても大切だと痛感しました。
家族なのだから、口にしなくてもわかると思うのは間違いです。
おかしいと感じたら、確認する。
これを怠ったばかりに、私は大きな負担を負うことになってしまいました。