3Mは、個人向けの消費材や医療用製品を中心に幅広い商品を製造するコングロマリット企業です。
※コングロマリットとは、もともと関連のない複数の企業を統合してできた巨大企業グループのこと
日本で3Mの名前は聞きなじみがありませんが「Post-it」や「Scotch」というブランドのテープやのりといった事務製品が身近に使われています。
(引用:株探米国)
この記事では、3Mの株価の今後について解説します。
3Mの概要
3Mは、1902年に創業されたアメリカ企業です。
消費材の販売を手がけるコングロマリット企業で、同業種内では時価総額5位、売上高4位と非常に優秀な成績を誇ります。
(参考:会社四季報オンライン|スリーエムの業績)
200カ国以上で製品を販売し、従業員は8万人を超えるほど規模も大きいです。
1946年1月にニューヨーク証券取引所に上場、その後順調に業績を伸ばし、1976年以降ダウ工業株30種構成銘柄に名を連ねています。
※ダウ工業株30種構成銘柄とは、世界で最も有名な株価指数の1つ。
時代の流れを反映し、不定期に銘柄の入替が行われる。
アメリカを代表する30銘柄の動きを表す指数とされる。
(参考:SBI証券|NYダウ工業株30種とは)
連続増配も65年超と投資家目線でも優良な企業ですが、近年の株価は落ち込んでいます。
(引用:Yahoo!ファイナンス)
一時は250ドルを超える人気株だったのですが、現在は90ドル付近を推移しています。
なぜ、3Mはここまで株価が急落してしまったのでしょうか?
この記事を読めば、以下のことがわかります。
- 3Mの株価急落の理由
- 3Mの懸念点
3Mが将来的にも伸び続ける銘柄か、判断する材料になるでしょう。
3Mの株価急落の理由
3Mの株価が急落した理由には以下のものが考えられます。
- 2018年の米中摩擦
- 投資家の予想に反した決算報告
2018年からの米中摩擦
2018年にアメリカが中国製品に対して関税の引き上げを公表しました。
アメリカが、中国の産業機械などに25%もの関税を上乗せしたことを皮切りに、半導体や家具・家電、衣類品に至るまで関税の上乗せをおこないました。
それに対して、中国もアメリカ製品に対して関税の引き上げを公表。
大豆や自動車に25%の関税を上乗せすることから始まり、古紙やLNG、原油と関税を引き上げていきました。
(参考:日本経済新聞|米中関税合戦とは18年7月から1年超続く)
3Mの製品は中国市場にも多く出回っていたため、米中の関係悪化によるダメージが大きく、株価を下げてしまいました。
投資家の予想に反した決算報告
2019年4月の決算内容が悪かったことがきっかけで株価を落としたといわれています。
(引用:Yahoo!ファイナンス)
2018年と比べると、売上高から当期利益まで減少していますが、凄く落ち込んだというわけではありません。
問題はEPS(1株あたり利益)の市場予想と実績の乖離があったことです。
市場予想より下回ったことで、投資家から売りに出されてしまいました。
予想を下回るまで、3Mは株価を上げていたために、利益確定を狙う投資家の判断と合わさって、株価を暴落させたのです。
その後、コロナ禍でマスクや消毒液などの特需があり業績が回復傾向にあった3Mですが、2023年度は赤字転落。
(引用:株探米国)
この赤字転落した要因が、3Mの懸念点に繋がります。
3Mの懸念点
3Mの懸念点は訴訟リスクの多さです。
取り扱う商品が多い分、訴訟リスクも多くなります。
現在、2つの訴訟問題を抱えています。
- 有機フッ素化合物(PFAS)について
- 戦闘用耳栓による聴覚障害
3MはPFASメーカーとしても有名です。
PFASには、熱や薬品に強い・水や油をはじく・光を吸収しないという性質を持っており、3Mの製品にも数多く使われていました。
しかし近年の研究により、PFASには致命的な欠陥があり、自然環境での分解が遅く、Forever chemicals(永久に残る化学物質)と呼ばれだしたのです。
人体にも悪影響を及ぼし、PFASに汚染された土壌や飲料水が免疫力の低下や発がん性などの有害性をもたらすとして、環境団体や自治体から3Mが訴えられることが増えてきたのです。
このような背景を受け、3MはPFASの製造から撤退する意向を発表。
また、PFASによる訴訟の和解金として、3Mは約1兆8,000億円もの大金で和解することを合意しました。
(参考:日本経済新聞|PFAS汚染訴訟、米3Mが最大1.8兆円の和解金支払いへ)
この訴訟の関連費用は約103億ドル、2023年4~6月期に計上しています。
このような訴訟関連費用が問題となり、2023年度の3Mの業績は赤字転落しました。
(参考:日本経済新聞|米3M、7~9月期は3100億円の赤字 訴訟関連費用が重荷に)
問題はPFASだけではありません。
23万人以上の退役軍人から耳栓による聴覚障害で訴訟されています。
この耳栓は2001年から15年にかけて、アフガニスタンとイラクで支給されたものです。
訴えの内容は、爆発音などから十分に耳を守らず、難聴につながったというもので「大規模不法行為(多くの人に影響を与える不法行為)」をめぐる訴訟の中で、アメリカ史上最多の訴訟件数に膨らんでいます。
暫定合意した和解金は55億ドル(約8,065億円)以上です。
3Mは耳栓に関し、2018年にも和解金を支払っています。
耳栓の品質に問題があると知りながら、米軍に報告を怠ったとし、アメリカ司法省に910万ドルを支払ったのです。
(参考:日本経済新聞|米3M、8000億円で和解へ 軍需用耳栓の訴訟で)
アメリカは訴訟大国とも呼ばれています。
大手の消費材メーカーである3Mは、商品の数だけ訴訟リスクを抱えているともいえるでしょう。
1つ1つの訴訟で、経営が一気に傾くことはないでしょう。
しかし、今回のPFASと聴覚障害の訴訟で合意した和解金の支払いは2023年のことです。
訴訟が重なってしまうと、3Mの業績は悪化し、経営が傾くこともあり得ます。
3Mの株価上昇は、訴訟リスクを加味すると、難しいのではないでしょうか?
まとめ:3Mの株価上昇は期待しにくい
3Mの株価上昇は期待しにくいと予想します。
一時は250ドル超の人気銘柄でしたが、2018年の米中摩擦から株価が下落し始め、投資家の期待を超える業績を上げることができずに下落を続けました。
3Mが展開する製品は数が多いため、その分訴訟リスクも大きくなります。
2023年にはPFASの健康被害による訴訟と軍需用耳栓の訴訟により、2兆5,000億以上の費用がかかりました。
決算では営業利益・経常利益・最終利益とも赤字に転落しています。
(引用:株探米国)
訴訟リスクがあるため、株価の上昇を期待して購入するグロース株としての魅力はないと考えます。
ただし、3Mは連続増配60年を超える記録を持つ配当貴族です。
株価が下がっている今、バリュー株として購入し、配当狙いの投資スタイルなら問題ないでしょう。
3Mの株式を購入する時の参考にしてみてください。
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