結論から書きます。銀行が口座を止める理由を本人に説明しないのは、意地悪でも手違いでもありません。犯罪による収益の移転防止に関する法律が、届出をしたことを本人に漏らしてはならないと定めているからです。ただし、凍結の入口は1つではありません。理由の型ごとに、次にできることが変わります。
体験談を集めても答えは出ません。関係する条文を直接読んで整理します。2026年8月31日にe-Gov法令検索で確認した内容です。
なぜ理由を教えてもらえないのか
銀行は、取引に不審な点があると判断すると、行政庁へ疑わしい取引の届出を行います。その届出について、同じ法律の第8条第4項がこう定めています。
特定事業者(その役員及び使用人を含む。)は、(中略)疑わしい取引の届出を行おうとすること又は行ったことを当該疑わしい取引の届出に係る顧客等又はその者の関係者に漏らしてはならない。
出典は犯罪による収益の移転防止に関する法律(平成19年法律第22号)第8条(e-Gov法令検索・2026年8月31日確認)です。
窓口の担当者が言葉を濁すのは、この条文があるためです。粘って聞いても内容は出てきません。聞く相手と聞き方を変えるほうが、結果的に早く進みます。
凍結の入口は大きく4つ
| 型 | きっかけ | 根拠 |
|---|---|---|
| 犯罪利用の疑い | 捜査機関等からの情報提供など | 振り込め詐欺救済法3条1項 |
| 名義人の死亡 | 相続の開始を銀行が知ったとき | 相続手続きの実務 |
| 差押え | 税金の滞納、裁判所の手続き | 各法令に基づく差押命令 |
| 長期間の未利用 | 10年以上の取引がない預金 | 休眠預金等活用法 |
読者の多くが当たるのは1番目です。ここは条文が具体的に書いています。
金融機関は、当該金融機関の預金口座等について、捜査機関等から当該預金口座等の不正な利用に関する情報の提供があることその他の事情を勘案して犯罪利用預金口座等である疑いがあると認めるときは、当該預金口座等に係る取引の停止等の措置を適切に講ずるものとする。
出典は犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律(振り込め詐欺救済法)第3条(e-Gov法令検索・2026年8月31日確認)です。
別の銀行の口座まで止まる理由
1つの銀行で止まったあと、取引のない別の銀行でも使えなくなることがあります。これも条文に書かれています。同じ第3条の第2項です。
金融機関は、前項の場合において、同項の預金口座等に係る取引の状況その他の事情を勘案して当該預金口座等に係る資金を移転する目的で利用された疑いがある他の金融機関の預金口座等があると認めるときは、当該他の金融機関に対して必要な情報を提供するものとする。
銀行から銀行へ情報が渡る仕組みが、法律に用意されています。1行だけの話として構えていると、想定が外れます。
さらに第4条は、犯罪利用の疑いに相当な理由があると認めるときは、預金保険機構に対して債権の消滅手続の開始に係る公告を求めなければならない、としています。放置していると、残高そのものが手続きに入っていきます。心当たりがなくても、連絡を待つのではなく自分から動く必要があります。
名義人が亡くなった場合は、仮払いの制度がある
家族が亡くなって口座が止まり、葬儀費用が出せないという場面があります。ここには民法の制度が用意されています。
各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(中略)については、単独でその権利を行使することができる。
限度額は法務省令で決まっていて、民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令に「百五十万円とする」と書かれています。金融機関ごとに150万円が上限です。出典はいずれもe-Gov法令検索(2026年8月31日確認)です。
遺産分割の話し合いが終わっていなくても、この範囲は1人で引き出せます。相続人全員の同意を待つ必要はありません。
自分の口座が止まったときに進める順
- ATMの画面やアプリに出たメッセージを控える。取引そのものができないのか、一部だけなのかで型が分かれます
- 通帳やアプリで、直近の入出金に見覚えのない振込がないかを確認する。だまし取られたお金の受け皿として自分の口座が使われていた場合、この形で現れます
- 銀行のコールセンターではなく、口座のある支店に連絡する。理由は聞けませんが、解除に必要な書類は案内されます
- 心当たりがある場合は、その内容を先に伝える。ネットで知り合った相手にキャッシュカードや暗証番号を渡していた、副業として口座を貸していた、といった事情は、隠すほど長引きます
- 差押えが原因と思われる場合は、税金や社会保険料の未納がないかを確認する。この型は納付で解ける場合があります
誰かに口座やカードを渡してしまった場合は、その行為自体が問題になることがあります。早めに警察相談専用電話の#9110に相談したほうが、選べる手が残ります。
まとめ
- 理由を説明しないのは法律の定めによるものです。疑わしい取引の届出を本人に漏らすことが禁じられています
- 犯罪利用の疑いによる停止は、捜査機関等からの情報提供などを勘案して行われます
- 1つの銀行から他の銀行へ情報が渡る仕組みが条文にあります。他行の口座が止まることがあります
- 相当な理由があると認められると、預金保険機構への公告を求める手続きに進みます
- 名義人の死亡による凍結には、相続開始時の残高の3分の1に相続分を掛けた額まで、金融機関ごとに150万円を上限として1人で引き出せる制度があります
- 支店へ連絡し、心当たりがあれば先に伝えるほうが早く終わります
まとまったお金を入れたときに銀行から質問される仕組みは100万円を入金すると怪しまれる?にまとめています。
お金の話は、根拠のあいまいな情報がそのまま広がっていることがあります。このサイトでは、法律の条文や官庁・業界団体の資料まで戻って、確認した日付とあわせて書いています。実際に出回っている誤りを訂正した例も含め、ほかの調べ物は人に聞けないお金の質問にまとめました。