結論から書きます。銀行が「この金額を超えたら税務署に連絡する」という基準は、法律のどこにもありません。よく出回っている「100万円」「200万円」「1,000万円」といった数字は、それぞれ別の制度の話が混ざったものです。税務署に自動で書類が届くのは、国外への送金と国外からの受け取りだけで、その基準は100万円を超えたときです。
国内の口座に現金を入れたり、家族に振り込んだりしただけで、銀行がその情報を税務署へ送ることはありません。ただし「では何も見られていない」という意味でもありません。3つの制度を、条文と公式の資料で1つずつ切り分けます。いずれも2026年9月2日に確認した内容です。
まず、混同されている3つの制度を分ける
| 制度 | 金額の基準 | 情報の行き先 |
|---|---|---|
| 国外送金等調書 | 100万円を超える国外送金・国外からの受領 | 税務署(金融機関が提出) |
| 取引時確認(本人確認) | 200万円超の現金取引、10万円超の現金による振込 | どこにも送られない(銀行が記録して保存) |
| 疑わしい取引の届出 | 金額の基準なし | 行政庁(税務署ではない) |
「100万円で税務署に連絡が行く」は1行目、「200万円を超えると報告される」は2行目、「怪しまれると通報される」は3行目の話です。3つとも実在しますが、行き先も条件も違います。順に見ます。
税務署に書類が届くのは、国外とのやり取りだけ
金融機関が税務署へ提出する義務を負っているのは、国外送金等調書という書類です。根拠は内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律の第4条第1項で、条文はこうなっています。
金融機関は、その顧客が当該金融機関の営業所等を通じてする国外送金等(その金額が政令で定める金額以下のものを除く。)に係る為替取引を行ったときは、(中略)調書を、その為替取引を行った日として財務省令で定める日の属する月の翌月末日までに、当該為替取引に係る金融機関の営業所等の所在地の所轄税務署長に提出しなければならない。
ここでいう「政令で定める金額」は、同法施行令の第8条に書かれています。「法第四条第一項に規定する政令で定める金額は、百万円とする」です。つまり100万円を超える国外送金と、国外から100万円を超える送金を受け取ったときに、金融機関が翌月末までに税務署へ調書を出します。出典はいずれもe-Gov法令検索で条文を確認しました(2026年9月2日)。国税庁の国外送金等調書の案内ページにも、提出する人は金融機関、提出時期は為替取引を行った日の翌月末と書かれています。
逆に言うと、国内の口座間の振込や、窓口での入金については、こうした調書の制度がありません。金額がいくらであっても、銀行がそれを税務署へ送る仕組みは用意されていません。
200万円と10万円は、本人確認の線です
「200万円を超えると報告される」という話の元になっているのは、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯罪収益移転防止法)です。同法第4条第1項は、銀行などの事業者に対して、一定の取引を行うときに顧客の本人特定事項、取引を行う目的、職業を確認するよう義務づけています。
その「一定の取引」の金額は、同法施行令の第7条に並んでいます。現金の受払いをする取引は「当該取引の金額が二百万円(現金の受払いをする取引で為替取引又は自己宛小切手の振出しを伴うものにあっては、十万円)を超えるもの」です。窓口で現金を200万円より多く動かすとき、または現金で10万円より多く振り込むときに、免許証などの提示を求められるのはこの条文が理由です。
ここで確かめておきたいのは、この確認の結果がどこへ行くかです。犯罪収益移転防止法には、確認した内容を税務署へ送るという規定がありません。銀行が確認記録を作って保存する、というところまでが義務です。窓口で身分証を出したことが、そのまま税務署に伝わるわけではありません。
金額に関係なく届出されることはあります
同じ法律の第8条には、疑わしい取引の届出という制度があります。条文は「当該取引において収受した財産が犯罪による収益である疑いがあるかどうか(中略)を判断し、これらの疑いがあると認められる場合においては、速やかに、政令で定めるところにより、政令で定める事項を行政庁に届け出なければならない」です。
この届出には金額の基準がありません。10万円でも届出の対象になりえますし、500万円でも普通の取引と判断されれば届出されません。判断するのは銀行です。そして届出先は「行政庁」で、税務署ではありません。
もうひとつ、同条第4項に見落とせない規定があります。「特定事業者(その役員及び使用人を含む。)は、(中略)届出を行おうとすること又は行ったことを当該疑わしい取引の届出に係る顧客等又はその者の関係者に漏らしてはならない」です。届出をしたかどうかを銀行が客に伝えることは、法律で禁じられています。窓口の対応から届出の有無を推し量ることはできません。
税務署が銀行に聞くのは、調査が始まってから
ここまでは銀行から出ていく話でした。逆向き、つまり税務署から銀行に照会する仕組みもあります。国税通則法第74条の2は、国税庁、国税局、税務署の職員が「所得税、法人税、地方法人税又は消費税に関する調査について必要があるときは」関係者に質問し、帳簿書類などを検査できると定めています。同条第1号ハには、納税義務がある人に「金銭若しくは物品の給付をする義務があつたと認められる者」も対象に含まれると書かれています。銀行はここに当たります。
ただし条文をよく読むと、これは「調査について必要があるとき」の権限です。誰かの口座を常時のぞける仕組みではありません。順番としては、申告の内容や資料情報から調べる必要が出てきて、そこから銀行への照会が始まります。
実際に見つかっているのは、相続のときが多い
では実際にどれくらい調べられているのか。国税庁が2025年12月に公表した令和6事務年度における相続税の調査等の状況(2026年9月2日確認)に数字があります。
- 相続税の実地調査件数は9,512件で、前の事務年度に比べて111.2%
- そのうち申告漏れなどの非違があったのは7,826件で、割合は82.3%
- 追徴税額の合計は824億円で、前の事務年度に比べて112.2%
- 実地調査1件あたりの申告漏れ課税価格は3,093万円
実地調査に入られたうちの8割を超える件で申告漏れが見つかっています。相続のときは、亡くなった方の過去の口座の動きがまとめて確認されます。日々の入出金がその場で税務署に伝わるのではなく、あとから相続の場面でまとめて見られる、という順番です。
よく心配されることへの答え
- 家族の口座へ100万円を振り込んだ。国内どうしなので調書は出ません。ただし贈与に当たるかどうかは別の問題です。国税庁のタックスアンサーNo.4402によると、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかからず、申告も不要です(2026年9月2日確認)
- 現金で150万円を入金した。200万円以下なので、犯罪収益移転防止法施行令が定める本人確認の対象になる金額ではありません。ただし銀行が独自に確認することはあります
- 海外の家族から80万円を受け取った。100万円を超えていないので、国外送金等調書は提出されません
- 分けて入金すれば避けられる。これは避ける手立てになりません。疑わしい取引の届出には金額の基準がなく、判断するのは銀行です
自分のケースを確かめる手順
- 国外とのやり取りかどうかを分ける。国外への送金、国外からの受領で100万円を超えるなら、調書が税務署に出ます。それ以外は出ません
- お金の性格を確かめる。自分の口座から自分の口座へ移しただけなら、そもそも課税されるものがありません。ほかの人からもらったのなら贈与、働いて得たのなら所得です
- もらったお金なら、1年間の合計額を数える。110万円を超えていれば、翌年2月1日から3月15日までに贈与税の申告が必要です
- 判断がつかないときは、税務署の電話相談センターに匿名で聞けます。国税庁の税の相談のページから、最寄りの税務署の番号を確認してください
まとめ
- 銀行が金額を理由に税務署へ連絡する制度は、国外送金等調書だけです。基準は100万円を超えたとき
- 200万円超と10万円超は本人確認の線で、確認した内容が税務署へ送られる規定はありません
- 疑わしい取引の届出には金額の基準がなく、届出先は行政庁です。届出したことを客に伝えるのは法律で禁じられています
- 税務署が銀行に照会できるのは、調査に必要があるときです。常時見ている仕組みではありません
- 令和6事務年度の相続税の実地調査は9,512件で、82.3%に申告漏れがありました。見つかるのは相続の場面が多いです
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