人体にとって有害と考えられているたばこ。
近年はたばこに対して厳しい施策がとられており、喫煙スペースの縮小・たばこ税の増税といった喫煙者にとって厳しい世の中になりつつあります。
イギリスでは2009年以降に生まれた人への紙巻きたばこの法案が議会に提出されるなど、たばこ離れを促進する風潮が強いです。
(参考:日本経済新聞|英、紙巻きたばこ生涯禁止 2009年以降生まれ対象に)
逆風の中にあるたばこ業界ですが、その業績は好調で、JT(日本たばこ産業)は2020年から株価を上昇させ、高配当銘柄として投資家に人気があります。
(引用:Yahoo!ファイナンス)
アメリカにもJTのようなたばこ産業で有名な企業があります。
アルトリア・グループです。
(引用:株探米国)
この記事では、アルトリア・グループの株価や将来性について解説します。
アルトリア・グループの概要
アルトリア・グループの前身はフィリップモリス社です。
フィリップモリスは1900年に設立されました。
1978年にニューヨーク証券取引所に上場、1985年に現在のアルトリア・グループに社名を変更しています。
アルトリア・グループの主力商品はたばこです。
売上の90%以上を占めています。
Marlboro(マルボロ)という有名な商品はアルトリアのものです。
たばこ産業以外にもビールやワインといったアルコール事業にも進出しています。
近年では紙巻きたばこ以外に電子たばこといった領域にも進出しています。
2007年に食品事業のクラフトハインツ、2008年にたばこ事業国際部門を担当するフィリップモリスを分社化し、アメリカでのたばこ事業に専念しています。
アルトリアは高配当銘柄としても有名で、連続増配50年超の配当貴族で、投資家に人気です。
しかし、株価は右肩下がりになっています。
(引用:Yahoo!ファイナンス)
一時は75ドルを超えるほどの成長を見せていたアルトリア・グループですが、なぜ株価が下がってしまったのでしょうか?
この記事を読めば、以下のことがわかります。
- アルトリア・グループの株価減少について
- アルトリア・グループの懸念点
アルトリア・グループが将来的にも伸び続ける銘柄か、判断する材料になるでしょう。
アルトリア・グループの株価減少について
2017年までは右肩上がりを続けていたアルトリア・グループですが、2017年以降は株価の減少が続いています。
理由は以下のとおりです。
- FDA(米国医薬品局)の規制強化
- 加熱式たばこ「アイコス」の販売認可が下りなかったこと
- 買収企業の評価額見直しによる損失
たばこの健康被害は誰もが知るところです。
若年層の喫煙などたばこに関する問題は数多くあります。
日本ではたばこのパッケージに注意書きが少しあるだけですが、アメリカのたばこのパッケージは注意喚起が一目でわかるようになっています。
(引用:特定非営利法人日本禁煙学会|アメリカのタバコパッケージの警告表示)
健康意識が高まっているアメリカでは、行政のたばこに対する規制も強いです。
ニコチン含有量を中毒性がない水準へ削減義務付け・メンソールたばこの販売禁止など、近年では電子たばこの販売禁止も進められています。
(参考:Bloomberg|米たばこ株下落、政府がニコチン規制強化を検討中との報道で)
電子たばこは通常のたばこと違い、味や香りが楽しめます。
吸いやすさから未成年を中心に注目を集めました。
結果、アメリカ国内で6人が死亡し、450人が肺疾患を発症(平均年齢は19歳)という重大な事態になりました。
これを受け、アメリカ政府は電子たばこの規制を検討、サンフランシスコではアメリカ国内で初となる電子たばこ販売禁止条例を定めました。
(参考:BBC NEWS JAPAN|トランプ氏、味や香り付き電子たばこの販売禁止へ 1年で6人死亡)
(参考:BBC NEWS JAPAN|サンフランシスコ、電子たばこの販売禁止へ 米国初)
アルトリア・グループは、従来の紙巻きたばこの次の主力商品として電子たばこに着目していました。
電子たばこの販売強化のため、2018年に電子たばこメーカーのジュール・ラブズを巨額買収。
しかし、電子たばこによる被害が相次ぎ、規制強化の波を受け、想定した収益が見込めずに2019年には9,400億円もの損失を計上しています。
(参考:日本経済新聞|米アルトリア、電子たばこ出資で9400億円の評価損)
たばこに対する厳しい規制により、アルトリア・グループの株価は下落を続けました。
アルトリア・グループの将来性
アルトリア・グループの将来性を判断するのは難しいでしょう。
株価が今後伸びるか、という点については無いでしょう。
しかし、安定したバリュー株投資銘柄としての将来性はあると思います。
株価が伸びない理由は、ESG投資に反しているからです。
ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の頭文字をとったものです。
気候変動や人権などの社会問題は、企業が長期的成長を目指すうえで重視すべき問題として、近年では「ESG投資」という概念が出てきました。
投資家たちは、企業がESGに配慮しているかどうかを見て、投資を判断するのです。
ESGに配慮がされていない企業は投資家からの価値低下につながり、長期的な成長の基盤を整えるためには、ESGに配慮した取り組みは欠かせません。
ESG投資の金額は今や世界の投資額の3分の1にもなるといわれています。
(参考:NRI|ESG(環境・社会・ガバナンス))
ESG投資は今やトレンドとなっており、企業も目を背けることができない概念です。
アルトリア・グループの主力商品であるたばこは、中毒性があり、健康に被害を及ぼします。
先述したとおり、米国政府からの規制も強いです。
ESGという考え方が広まってきている今、アルトリア・グループは時代の波に取り残されているといっても過言ではありません。
たばこに代わる主力商品が創造できれば良いですが、現状難しいでしょう。
ESGの観点から、株価を引き上げるような投資家からの投資は受けられないと考えます。
反面、バリュー株としての魅力はいまだ健在です。
株価が下がった今は仕込み時といえるでしょう。
アルトリア・グループは50年を超える期間、増配を続けています。
配当利回りも高く、高配当株として人気です。
アルトリア・グループの強みは営業利益率の高さと参入障壁の高さにあります。
たばこ事業は設備投資がほとんど必要なく、営業利益率が高くなるのです。
営業利益率は、営業益を売上高で割ることで算出できます。
(引用:株探米国)
2019年度から2023年度まで一貫して40%以上あります。
これはアルトリア・グループのような一般消費材セクターではかなり高いものです。
営業利益率が高いということは、本業で儲けがあるということ。
アルトリア・グループは盤石の営業体制ということが伺えます。
近年ではたばこ離れが進んでいるとはいえ、たばこには中毒性があります。
一度顧客にしてしまえば長期の収益が見込めるため、問題ないでしょう。
アメリカ国内での規制もアルトリア・グループにとって追い風となる面もあります。
新規参入が難しく、実質的に市場を独占できるからです。
以上の理由から、アルトリア・グループにはバリュー株としての将来性はあると思います。
まとめ:アルトリア・グループの保有はおすすめ。しかし…
アルトリア・グループの将来性についてまとめました。
アルトリア・グループの株価が下がった理由は以下のとおりです。
- FDA(米国医薬品局)の規制強化
- 加熱式たばこ「アイコス」の販売認可が下りなかったこと
- 買収企業の評価額見直しによる損失
アメリカ国内でたばこに対する規制が強くなったことと主力商品として買収した電子たばこメーカーによる評価損が響き、株価の減少につながりました。
アルトリア・グループの株価が今後大きく伸びることはないと予測します。
たばこに対する考え方や社会の変化、ESG投資に反していることが理由です。
しかし、バリュー株としてのアルトリア・グループ銘柄には魅力があります。
営業利益率の高さと参入障壁の高さによる業績の安定性が理由です。
注意点があるとすれば、配当性向が高い点です。
配当性向とは、企業の利益のうち配当にどれだけ割いているかを図る指標です。
アルトリア・グループの配当性向は高く、80%近くあるといわれているため、今後も増配を続けられるのか不安が残ります。
多くの資金をアルトリア・グループの株につぎ込むのは止めておくのがいいというのが筆者の意見です。
アルトリア・グループの株式を購入する時の参考にしてみてください。
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