JT(日本たばこ産業)は、高配当株の代表格といえる企業です。
そのため、個人投資家の中にはJT株の購入を検討している方も多くいるでしょう。一方で「JT株は買ってはいけない」とおすすめしない個人投資家も多くいます。
そこで、この記事ではJT株の購入を検討している方に向けて、「高配当株の特徴」や「今後のJT株の株価・配当」について考察していきます。
最後まで読んで、JT株の購入をすべきか、改めて検討してみてください。
JT株はなぜ高配当?
JT株は高配当株として知られています。
「高配当株」の判断は「配当利回り」で行うことが一般的ですが、JT株は4.95%(2025/2/9時点)と東証プライム市場全体の2.51%(出典:日本経済新聞)を大きく上回る配当利回りです。
では、なぜ配当利回りが高いのでしょうか。
JT株は配当性向が高い
JT株の配当利回りが高い最大の理由は、「配当性向が高い」ためです。
直近の配当性向の実績(2023年度)は71.4%という高い水準でした。
またJTは、2023年度の決算説明資料にて、2024年度の株主還元方針として「配当性向75%を目安とする」ことを掲げており、さらに配当性向は上がる見通しとなっています。
そもそも配当性向とは「今期の利益の中から何割を株主配当に回したか」を表す指標のため、JTのように利益の70%以上も配当していれば、配当利回りが高くなる可能性が高くなります。
JTは成熟した企業
JT株の配当利回りが高いもう一つの理由は、「成熟した企業(低成長企業)」に位置づけられるためです。
単純に考えると、業績のいい会社の方が配当利回りが高くなりそうですが、成熟企業ほど高配当株になります。
配当利回りの計算式は「株価÷1株あたり配当額」ですが、業績のいい会社は「1株あたり配当額」も増えていく一方で、「株価」もあがるため、配当利回りは1~3%です。逆に成熟企業では、株価が低迷することが多いため、配当利回りが高くなります。
高配当のJT株を買ってはいけない理由とは?
高配当株の代表格のJT株を買ってはいけない理由は、JTの主力事業である「たばこ事業」がすでに成熟した事業で、今後縮小していくことが予想されるためです。
言い換えれば、JTの業績拡大は見込めず、むしろ業績は右肩下がりになる可能性が高く、株価の長期低迷になるかもしれません。
市場の縮小
普段の生活をしていても分かりますが、喫煙所が減っていたり、禁煙する人が増えたりと喫煙者の人口は減少傾向です。
実際にJTの決算発表資料からも、たばこの販売数量は減少していることがわかります。
販売数量 | 2020/12期 | 2021/12期 | 2022/12期 | 2023/12期 |
前年比 | ▲3.0% | ▲3.0% | ▲0.5% | 2.4% |
ただ、下の過去10年分のJTの業績推移をみても、その傾向は分かりません。
単位:百万円 | 売上高 | 営業利益 | 当期純利益 |
2014/12期 | 2,019,745 | 499,880 | 368,626 |
2015/12期 | 2,252,884 | 565,229 | 490,242 |
2016/12期 | 2,143,287 | 593,329 | 425,773 |
2017/12期 | 2,139,653 | 561,101 | 396,749 |
2018/12期 | 2,215,962 | 564,984 | 387,431 |
2019/12期 | 2,175,626 | 502,355 | 361,622 |
2020/12期 | 2,092,561 | 469,021 | 312,029 |
2021/12期 | 2,324,838 | 472,390 | 340,181 |
2022/12期 | 2,657,832 | 653,575 | 444,174 |
2023/12期 | 2,841,077 | 672,410 | 485,310 |
JTに起こっている変化は次の通りです。
- たばこ製品の値上げなどで売上が伸びている。
- 利益率が高い紙タバコの需要が減っている。
- 利益率の低い電子タバコなどに売上がシフトしている。
これらの結果、売上は10年前に比べて伸びていますが、当期利益は3,000~5,000億円で上下している状態です。
ESGへの不安
株価上昇のためには、海外投資家などから株を購入してもらうことが必要となります。
そのために近年欠かせないテーマが「ESG投資」です。
ESGとは「企業が果たすべき社会的責任」のことで、「環境の保護」や「従業員の健康」などがベースにあり、「企業の利益」はその上にあるという考え方です。そのため、いくら業績がよくても「環境汚染」や「従業員が幸せでない」会社は評価されません。
JTのホームページをみると、「サステナビリティ」や「コーポレートガバナンス」を説明するページが設けられていて、これがJTのESGの観点での取り組み内容です。
ただ、主力事業である「たばこ事業」は、ESGの観点から評価されにくく、JTの株価は下落していく可能性があります。
今後のJT株の株価や配当はどうなる?
JT株の購入を検討している個人投資家にとっての関心事は、今後の株価や配当の動向ではないでしょうか。
ここでは、株価や配当の行方を考察していきましょう。
JT株のEPSに注目!
株価が上昇していくためには、EPSの成長が重要です。
直近の4年のEPSは上昇基調で、2023/12期のEPSは、2015/12期のEPS:270.54円を上回り過去最高を記録しました。
2020/12期 | 2021/12期 | 2022/12期 | 2023/12期 | 2024/12期 (予想) | |
EPS | 174.88円 | 190.76円 | 249.45円 | 271.69円 | 263.02円 |
このEPSの上昇の要因を分析すると、「たばこの値上げ」と「円安」となります。言い換えると、JTの業績は販売数量の減少を、なんとか「値上げ」と「円安」でカバーしている状態です。
ただ、その状態も崩れつつあり、2024/12期には円安効果がなくなり、EPSが頭打ちとなる見込みです。
このように、タバコは販売数量の伸びが期待できない中では、「値上げ」と「円安」が続かない限り、JT株の株価の上昇は期待できないでしょう。
今後は配当が減る可能性がある
JTの配当性向は、すでに高水準であることから現在の配当を維持するためには、現状以上の利益を創出する必要があります。
そのためには、ここまで見てきた通り「たばこの値上げ」と「円安」が続くことが前提です。
筆者としては、今後のJTの業績の見通しについてはネガティブですが、円高に転換することで減益傾向になれば、配当は減少トレンドになることは避けられないでしょう。
まとめ
足もとの業績だけでいえば、JTは増収増益傾向であり、過去の業績をみても高水準を維持しています。ただし、主力のたばこ事業の市場は縮小傾向なため、業績見通しは決して明るいものではありません。
JTの最大の魅力と言ってもいい「高配当」は、裏を返せば「利益を成長投資にまわしていない」ことになります。
JT株に投資を検討する場合には、JTが置かれた環境も意識しながら、業績がどのように推移するのかを見極めることが大切です。
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ライター名:社会人ライター ひろきち